日本庭園 返回

  日本、中国、朝鮮の庭園(ていえん)は、自然の景観美(けいかんび)を主とするものであって、幾何学的(きかがくてき)な美しさを重視(じゅうし)する西洋の庭園とは対照的(たいしょうてき)である。自然の景観美といっても、自然そのままの姿ではない。樹木(じゅもく)、石など自然の材料を用いて自然の山水 (さんすい)のたたずまいを象徴化(しょうちょうか)し、あるいは強調(きょうちょう)して、一つのまとまりのある調和(ちょうわ)した人工的(じんこうてき)空間美(くうかんび)を形成(けいせい)する。日本庭園の歴史は非常に古く、文献上(ぶんけんじょう)で残っているものだけでも、ゆうに千有余年の歴史を持っています。

  日本庭園の源流(げんりゅう)と呼ばれるべき物としては、石組(いしぐみ)のはじまりとして環状列石(かんじょうれっせき)や、磐座(いわくら)、磐境(いわさか)など、また池泉(ちせん)庭園の起こりとしては神池などがあげられる。そしてそれらの形態(けいたい)からさらに発展した物が、浄土式(じょうどしき)庭園や、池泉舟遊(しゅうゆう)式、枯山水(かれさんすい)などである。これらは四季の移ろいや、天候(てんこう)、自然の風景(ふうけい)などを考慮(こうりょ)に入れているほか、その時代における宗教(しゅうきょう)や哲学的(てつがくてき)な思想(しそう) はもちろんのこと、絵画(かいが)、文学、茶などの世界とも密接(みっせつ)な関わり合いを持ちながら創作(そうさく) されている。

  1000 年にわたる庭園の歴史のなかで、時代の推移(すいい)とともにその様式(ようしき)も変化する。その変化過程の中で重要な役割(やくわり)を果たしたのが、中国や朝鮮半島から流入(りゅうにゅう)してきた高度な文化、宗教、哲学などであり、これらの思想を背景とした意匠によって、日本独自の空間芸術としての庭園を造りだしていったのであります。つまり日本庭園の意匠(いしょう)の背景(はいけい)や石組には、自然に対しての敬(うやま)いと同時に、宗教、思想などからくる、その時代に思い描いていた人間の理想郷(りそうきょう)を抽象的(ちゅうしょうてき)に表現した物であり、それを自然の素材(そざい)を一切加工(かこう)することなく、ある時は豪快(ごうかい)に、ある時は繊細(せんさい)で穏やかな表情を見せるように作られ、見る人に様々な感動 (かんどう)を与えてくれるということは、各時代の作庭家(さくていか)の美的感覚(かんかく)が非常に優れていたという証(あかし)でもあるのです。

  日本庭園の区別は、大まかに築山(つきやま)と平庭(ひらにわ)との二つに分けられます。

  築山には泉水(せんすい)や滝(たき)や池を利用した「山水」庭と、水を使わずに風景を現わした「枯山水(かれさんすい)」庭の2系統(けいとう)があります。山水庭は石組みや池を配し、枯山水は池は造らず、白砂(はくさ)又は芝草(しそう) や枯松葉(かれまつば)を一面に敷きならして水面(すいめん) を模したり、小石を溝底に集めて涸池(かれいけ)を思わせたりする。

  平庭は、平らな士地に池や山を築かずに、景色を造り現わすものです。

  それと庭園利用の目的に対して、眺望園(ちょうぼうえん)と逍遙園(しょうようえん)とが有ります。建物(たてもの)に付随(ふずい)して造られて、座敷 (ざしき)、客間(きゃくま)、居間(いま)など一定の場所からながめて快適(かいてき)な庭を眺望園と言います。これに対し面積(めんせき)も広く、庭げたをはいてそぞろ歩きをしながら、心を楽しませる庭を逍遙園と言います。それと茶庭(ちゃてい)が有ります、茶室の庭園はある程度の約束ごとにもとずいて造られます。

  京都大徳寺(だいとくじ)万丈(ばんじょう)庭園、京都南禅寺(なんぜんじ)方丈(ほうじょう)庭園などは眺望園であり。東京小石川(こいしかわ)後楽園(こうらくえん)、京都修学院離宮(しゅがくいんりきゅう)ご庭は逍遥園と言えるでしょう。

  川端康成「美しい日本の私」のなかに次の記述もあります。

  「日本の庭園もまた大きい自然を象徴(しょうちょう)するものです。西洋の庭園が多くは均整(きんせい)に造られるのにくらべて、日本の庭園はたいてい不均整に造られますが、不均整は均整よりも、多くのもの、広いものを象徴できるからでありませう。勿論その不均整は、日本人の繊細微妙(せんさいびみょう)な感性によって釣り合ひが保たれての上であります。日本の造園ほど複雑(ふくざつ)、多趣(たしゅ)、綿密(めんみつ)、したがってむずかしい造園法はありません。枯山水という岩や石を組み合わせるだけの法は、その石組みによって、そこにない山や川、また大海(おおうみ)の波の打ち寄せるさままでを現はします。その凝縮(ぎょうしゅく)を極めると、日本の盆栽(ぼんさい)になり、盆石(ぼんせき)となります。」

  日本庭園は自然の景色を模して敷地内 (しきちない)に深山幽谷(しんざんゆうこく)や、広々とした大海の様をかたどったり、飛泉(ひせん)、渓流(けいりゅう)、池沼(ちしょう)などを造るなど。大自然の風景を縮図(しゅくず)して様々の景色を描出(びょうしゅつ)したものであります。